人類の夜明けをめぐる本棚会議
本棚会議vol.2『先史学者プラトン』刊行記念
<後編>
本棚案内 山本貴光+吉川浩満 井手ゆみこ(ジュンク堂書店人文書担当)
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●UFO・宇宙人・超古代史棚
吉川:……まあ、アトランティスときたら、UFO、宇宙人、超古代文明ということで、けっこう親しみの……みなさんに親しみがあるかどうかはわかりませんが、このアトランティスには親しみのあるテーマです。
山本:ムー大陸とか、オーパーツとか。実際、プラトンの『ティマイオス』でもアトランティスの描写をするなかで、ファンタジーの世界でよく活躍する、「ミスリル」という謎の金属が出てくるんだよね。そういう話もつながる。
吉川:ミスリルなんて、こないだまで、私、別に好きでやってたわけじゃないんですが、ライトノベルの校正の仕事をしてたんですけど、めっちゃ出てくる。
山本:あはは。
吉川:魔法みたいな金属で、もうなんでもできちゃう。
あと、これね、みなさん、ご記憶にないかもしれないですけれど、『神々の沈黙』(紀伊國屋書店)って覚えてないですか。3千年前まで人間には意識がなかったっていう話ですね。じゃあどうしてたのかっていうと、神からの声を直に聞いてたんですよ。だから、いまの、現代のわれわれみたいな自己意識、俺はとか私はとか、そういうのが一切なかったっていう。……まあ、なんていったらいいですかね……トンデモ、というのかわからないけれども、でも、すごく興味深い。案外、そうかもなと思わせないこともない。
『神々の沈黙』 |
山本:心がなかった時代っていうのはね。
吉川:だって、われわれだって、ほとんどの時間、心なんてないわけですから。
山本:ちょっと問題発言(笑)。でも、確かにそうだ。
吉川:あと、まあ、果たしてその方向に進んでいいのかっていう問題はあるけれども、『先史学者プラトン』を読んで本当にアトランティスに興味を持った人は、どのへんを読めば……。
山本:『失われた世界の超古代文明FILE』?
吉川:ああ、このへんですかね。
山本:ムーだね、これはね。
吉川:そっちにいっていいのかっていう問題はありますけれども、まあ、あります。興味がある方は、あとでこっそり手にとって……。
山本:こういうのも歴史と背中合わせで必ず出てくる。証拠があるような、ないようなときに、「こういう可能性もあるじゃん」という話が出てくるわけですね。
吉川:こういう、ある種の陰謀論みたいなものは、切っても切り離せないものですね。なにか物事を探究するときには絶対に出てくる。
山本:出てくるし、いちおう、その話に対してどういう態度をとるのかは考えておきたい。常に出てくるだけに、完全にスルーってわけにもいかないから。
吉川:うん。
●魔術・錬金術・占星術棚
吉川:錬金術とか神秘思想、占星術にご興味ある人、どれくらいいるかわからないですけれど、ちょっとね、『先史学者プラトン』から離れますけど、魔術の話、ちょっとしていい?
山本:いいよいいよ(笑)。
吉川:私、魔術にまったく疎くて、なんにも知らないんですけど、でも、言いたいことがひとつあって。つまり思い入れがあって、個人的に。
山本:うかがいましょう。
吉川:私が最初に勤めた会社は国書刊行会という出版社で、この本を売ってたんですよ。『法の書』っていう、20世紀最大の魔術師といわれるアレイスター・クロウリーの本。……まあ、そもそも魔術師ってなんなんだって話ですけど。オジー・オズボーンが歌ってたりして、すごく有名な人ですよ。「ミスター・クロウリー」なんて曲もあってですね。
『法の書』 |
井手:あ、『法の書』は、いまでもすごくよく売れます。
山本:最近もね、『麻薬常用者の日記』が新装版で出てました。
吉川:でね、これ、袋とじになってるんですよ。本文が全部袋とじになってる。
全員:ええ…!?
吉川:本文まるごと(笑)。でね、「本書は非常に強力な魔術的パワーを秘めています」と。「開封後、9ヵ月後にいかなる災害、大戦争、天変地異が生じても、小社は一切の責を負いかねます」って書いてあるんですよ。
『法の書』を開く吉川さん |
全員:ふふふ……。
吉川:でもね、これ、売り本じゃないですか。で、国書刊行会で働いていると、どんどん返ってくるわけですよ。返品で。見たら、ぜんぶ袋が破ってあるんですよ。当たり前ですけど。っていうことは、ほぼ毎日、破られてるわけじゃないですか。だからそれを見て、ああ、毎日何かが起こってもおかしくないなと思って。実際、ニュースを見ると、毎日どこかで必ず悲劇が起こっていて、クロウリーは正しかったな、と(笑)。
山本:うん(笑)。
吉川:もうひとつね。私が会社に入ったときに、この『黄金の夜明け魔法体系』っていうシリーズを会社がやってたの。黄金の夜明け団っていう有名な魔法の団体があって。ゴールデン・ドーン、略してGD。そこでね、編集部に、のちに私の妻となる、先輩の編集者がいてですね。
山本:お、なんかいい話の流れに。
吉川:なにやってるんですかって見たら、この『黄金の夜明け魔法体系6性魔術の世界』の編集を、額に汗してやっていて。性魔術って、わかります? セックスマジック。おそろしいですよね。この第6巻はいまたぶん品切れだと思うんですけど。いやぁ、とんでもない本を出してる会社に入っちゃったもんだなぁ、と。……以上です。
全員:(笑)。