ラベル 加藤陽子「歴史 この不思議な学問に魅せられて」 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
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7.28.2017

加藤陽子さんブックフェア

「過去を正確に描くことで未来をつくるお手伝いができる。それが歴史学の強みです」歴史学者の加藤陽子さんが、いま、読んでほしい本、20冊を選びました。「戦争が平場に降りてきた時代を生きる」選書フェアを開催いただいている書店さんでは、各書籍への加藤陽子さんのコメントの入った小冊子も配布しています。末尾に掲載しているフェア開催書店さんで、ぜひお手に取ってみてください。(編集部)

「寓話は、今この瞬間に起こっている戦争には無力であるが、永遠に起こりつづけるかも知れない戦争というものに呼びかける力はある」とは、敬愛する劇作家・野田秀樹の言葉です。

冒頭の「寓話」の二文字には、「歴史」あるいは「学問」など代入可能でしょう。

約140億年前にできたこの宇宙の中に、約46億年前に生まれたこの地球の上で、約20万年前に誕生した我らが祖先、その伝来の知恵を総動員し、地球が廃墟と化すのを押しとどめる時期に今や我らは到達したのではないかと思います。

後から振り返り、正真正銘の「危機の時代」だったと総括される時代が、素知らぬ顔をして脇腹を通り過ぎてゆく時の感覚、その感覚を体感できる本を選んでみました。
――加藤陽子 


8.14.2014

加藤陽子さんが選ぶ2014年夏に読んでほしい本

全国の書店でフェア開催中・加藤陽子さんがセレクトした、今年の夏に読んでほしい本10冊と、メッセージをお届けします。加藤陽子さんの似顔絵は、牧野伊三夫さんによるもの。選書フェアでは、各書籍の紹介付き小冊子も配布しています。末尾に掲載しているフェア開催書店さんで、ぜひお手に取ってみてください。(編集部)


『〈戦後〉が若かった頃』とは、私の愛してやまない仏文学者・海老坂武氏の自伝のタイトルです。

今ふりかえれば、戦後日本の若さを支えていたのは、大戦争の惨禍をくぐった後の省察に立った非戦力であったことに気づかされます。

日本を支えてきた大前提が一つの内閣の短慮で崩された 「今」、わたくしたちは新たな決意のもとに「記憶せよ、抗議せよ、そして生き延びよ」(井上ひさしの言葉)をモットーに、非戦力を再び獲得するための長い闘いを始めなければならないと思います。

桜のように散り際が美事な国民性には別れを告げ、竹のようにしなやかに強く生きていこうではありませんか。

そのような時に、あなたとともにあって、あなたを力づけてくれるはずの本を選びました。
――加藤陽子

7.24.2012

加藤陽子

絵・題字 牧野伊三夫

母校・桜蔭学園での講演記録 後編2
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』著者・加藤陽子さんが母校で話したこと、最終回。
総力戦となったときに動員される論理、「最悪の予想」の立てられ方。なぜ、人々が合理的な行動をとれなかったのか、なぜ、合理的な結末に至らないのか。紀元前のギリシアで初めて「戦史」が書かれた背景から、太平洋戦争まで。「歴史はすべて近代史だ」。(編集部)

歴史の「問い」の始まり

ヘロドトスは「歴史学の父」ですが、古代ギリシアにはもうひとり、歴史学にとって重要な人物がいます。トゥーキュディデース(紀元前460年頃~400年頃)で、ヘロドトスより20歳くらい若い。トゥーキュディデースという名前は、実に発音しにくい。ただ、岩波文庫などでは、この名前を採用しています。トゥーキュディデースは、まさに、今回のお話のテーマとしてドンピシャの題名、『戦史』という本を書きました。こちらは岩波文庫で、500ページ位もある厚さで上・中・下の三巻本の分量があります。やはり読み通すのは大変だと思いますが、こういう本を読んでいる女子高生には誰も話しかけてこないと思いますので、ひとりになりたいときなどにお薦めです(笑)


戦史 上 (岩波文庫 青 406-1) 戦史  (岩波文庫 青 406-1) 戦史 上 (岩波文庫 青 406-1)


トゥーキュディデースが誰と同じ世代かといえば、哲学者のソクラテスです。紀元前5~4世紀にかけてのギリシアは文化の隆盛期で、とくに都市国家のアテナイでは数々の演劇がうまれ、パルテノン神殿など、現代にも残る文化や芸術作品、建築物が生み出された時期でした。

8.15.2011

加藤陽子
絵・題字 牧野伊三夫
母校・桜蔭学園での講演記録 後編1
歴史という言葉が初めて使われたのは、紀元前5世紀のことでした。そしてそこには「戦争」が関わっているのです。紀元前に生きた人たちは、どんなふうに戦争を書きのこしていたのか。今日は終戦記念日ですが、ぐるるっと2500年以上前までさかのぼり、戦争の根本について思いをめぐらせてみたいと思います。(編集部)

歴史は「戦史」から始まった

みなさんが勉強している歴史という学問にも、もちろん“始まり”があります。その起源はどこにあるかというと、戦争にある――「歴史は戦史から始まった」といえるのではないか、こう私は考えています。なぜそういえるのか。紀元前5世紀の古代ギリシアまでさかのぼってお話ししましょう。

ピューリッツァー賞を受賞するような作家がベトナム戦争を描くように、あるいは、その逆で、ベトナム戦争を描いてピューリッツァー賞を受賞するように、アメリカの国家と社会に深刻な亀裂を生んだベトナム戦争は、多くの優れた作家の心を捉えました。感性の優れた人々は、まさに起こっている真っ最中の出来事であっても、何をどのように捉えるべきか、鋭い視覚を提示し、後々に残してくれるものです。

この話からも推測がつくように、紀元前5世紀の人たちも、きちんと同時代の戦争に目を向けていました。

みなさんも古文の授業で、『源氏物語』に接したことがあるでしょう。1001年には成立していたと考えられている、この『源氏物語』を読みますと、「千年以上も前に書かれているのに、なぜ今の自分たちの恋愛感情や季節への感覚と同じなのだろうか」と驚くのではないでしょうか。人間の底にある精神や感情はあまり変わらないということは、古典文学を読むと確認できますね。

人間は歴史をどのように記述しはじめたのか、歴史学に大きな影響を与えた2人の鉄人を紹介しながら、彼らが目の前で起きた戦争をどう考え、どのように記述したかを見ていきましょう。

5.04.2011

加藤陽子
絵・題字 牧野伊三夫

母校・桜蔭学園での講演記録 前編1
一昨年の秋、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』の著者・加藤陽子さんが、母校である桜蔭学園を訪れました。そのときの講演録を2回に分けてお届けいたします。掲載にあたり、一部加筆しています。

14歳
――丸ちゃん先生がもたらしてくれた、数学への目覚め

こんにちは。加藤陽子です。私は現在、東京大学文学部で日本近代史を教えています。今日は、みなさんに、私がどのように進路を決めていったかということ、そして私の専門分野である歴史学についてお話しするためにやってきました。母校で講演するのは初めてで、実はとても緊張しているのですが、みなさんと同じ中高生だった頃を思い返しながらお話ししていきたいと思います。

私は現在50歳になりますが、子どもがいません。ですので、みなさんのような可愛くて賢いお嬢さんたちを見ていると、ひとりくらい連れて帰ってしまおうか(笑)、なんて思ってしまいますね。私が在学していた20数年前と違って、なんだか桜蔭学園も芋畑から花畑へと変容を遂げているのかもしれません。
加藤陽子
絵・題字 牧野伊三夫
母校・桜蔭学園での講演記録 前編2
一昨年の秋、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』の著者・加藤陽子さんが、母校である桜蔭学園を訪れました。そのときの講演録を2回に分けてお届けいたします。掲載にあたり、一部加筆しています。

ひとりの先輩と、歴史との出会い

それでは、なぜ私が歴史学へ進んだのか、そのきっかけとなることをお話ししましょう。
物理部と兼部して社会科部にも入っていたといいましたが、その社会科部で、私はひとりの先輩と出会います。

きっとみなさんにも素敵な先輩、格好いい先輩、嫌な先輩がそれぞれいると思いますが、社会科部の村山先輩は、クールで中性的な女子高の憧れの先輩像とはまったく違う、巖(いわお)のような先輩でした(笑)。高校1年生なのに、なぜかお母さんのような風格が漂う偉人でした。ところかまわず偉人が出没するあたりが、桜蔭の良いところなのかもしれません。

やはり文化祭の話になりますが、中学2年生のときの文化祭で、社会科部は「世界恐慌と1930年代のアメリカ」というテーマで発表を行いました。夏休みに各自が分担して準備するのですが、幼くてまだ可愛らしかった私は、先輩から言われたテーマを一生懸命調べて、レポートを書いていくのですね。そうすると、そのレポートを村山先輩は真っ赤に添削して返してくる。