7.23.2013


ジュンク堂書店池袋本店で、岡ノ谷一夫著『「つながり」の進化生物学』の夏休み連続イベントを行うことになりました。第一弾は7月25日(木)19時半~『カラスの教科書』(雷鳥社)の松原始さんとのお話です。(ご予約はジュンク堂書店池袋本店 03-5956-6111 まで)

岡ノ谷一夫さんは、信濃毎日新聞(13年3月17日)で、「ジュウシマツの本よりも絶対カラスの本のほうが売れる」と嫉妬心をのぞかせつつ、「400ページをさらりと読んでしまうところがカラスである」「勢いに乗せられて読み切ってしまうことで、カラスについていっぱしの専門家になってしまうし、動物行動学や行動生態学の概要も学べてしまうのみならず、カラスに蹴られない方法まで学べるのだ。本書が教科書を名乗るのはもっともである」と、『カラスの教科書』を紹介されていました。

雷鳥社の担当の植木ななせさん(編集担当であると同時に『カラスの教科書』のほとんどの絵を描かれてます。本文組みと装丁も!)と松原始さんに、対談テーマをどうしましょう、と相談していたところ、松原さんから『「つながり」の進化生物学』の感想として、書評をいただいてしまいました。

どこにも載せないのはもったいない……ということで、イベント前にお読みいただければと思います。イベントともども、どうぞよろしくお願いいたします。(編集部)

岡ノ谷先生がご自分の専門領域を、わかりやすーく語る一冊。これを読めば科学、行動学、信号、コミュニケーション、そして哲学まで幅広くわかり、そして考えることができる。

岡ノ谷先生はジュウシマツの歌の研究で有名だが、その内容は歌の構造の解析(言語学的だ)、歌に対する個体の反応(行動学、あるいは行動生態学)、歌を制御する脳機能(神経生理学)、歌を覚えて行く過程(行動学、特に学習に関する部分)、歌う鳥と歌わない鳥(進化)、と優れて横断的である。だから「ナントカ学の専門家」というより「ジュウシマツの歌の専門家」と思ってしまうのである。

ところが岡ノ谷先生はクジラの歌とジュウシマツの歌を比較したかと思えばハダカデバネズミの社会を調べ、今度はまさかのデグーの道具使用まで飛び出し、何がご専門なのかよくわからない。カラスが「スペシャリストではないが一応何でも出来る」ならば岡ノ谷先生は「音声コミュニケーションの進化と発達に関わることなら全て何でも出来て、ついでにとんでもない発見までしちゃう」、マルチタスクなスペシャリストである。F-22かこの人は。

しかもプレゼンの上手さでも有名。以前ポスター発表を拝見した時、ポスターの前に立っておられた岡ノ谷先生は「ふう、あんまり喋ると疲れるから30秒で説明します。ジュウシマツのメスの心電図を見てどんな時にドキドキするか調べました。するとメスはオスの歌を聞くとドキドキすることがわかりました。そして複雑な歌を聞くと、もーっとドキドキすることがわかりました。」と図表を指差しながら見事に語り尽くしたのである!参ったなあ、こんな人と対談するのか。そもそも京大の大学院特別講義であちらは講師、こっちはペーペーの学生だったわけなのだが…

この本を読むと高校生向けの講義としてずいぶん練られていることがよくわかる。まず「コミュニケーション」という言葉の定義を共有し、ちょこっと自然科学というものについて確認し(理科は習うが、科学とは何かを学ぶ場はなかなかない。ここを読むだけでも価値はある。)、そこからジュウシマツの歌をめぐるあれこれに呼び込んで行く。さらに様々な動物のエピソードを交え(初めて知ったネタもちょこちょこあった)、進化に眼を向けたところで「行動学の4つの問い」を整理し、発達と学習と進化という「歌」を巡る生物学の真髄へと向かう。そこから広く「コミュニケーションって?」という問いへと向かい、現代の生物学では基本的な(そして誤解されがちな)Selfish=利己的、という概念も飛び出し、信号の進化へと内容は進む。そして、さらに先には哲学との境界領域…「主体とは」「相手を理解するとは」といった、自己と他者の認識という広大無辺なテーマが控えている。この辺りになると聞いている高校生も予想だにしなかった世界だったのではないか。

こんな話を高校の間に一度でも聞いておけば人生が変わるに違いない。そして、これをわずか4回の講義に収めた内容の濃さに驚き、これを聞ききった高校生の体力にも驚いた後、「ちょっと待て、この講義は何分なんだ、準備にどんだけ手間かけてるんだ」という、いささかセコい驚きにも見舞われるのである。

「つながり」の進化生物学   カラスの教科書

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