10.09.2014

理不尽な進化 まえがき



本ブログで2011年から2013年にわたって連載していた『理不尽な進化』が、このたび書籍になります。2014年10月25日から書店店頭にならびはじめます。これまで連載を読んでくださってありがとうございます。大幅な加筆修正がなされ、最後にはおもわず息をのむ眺望がまっていますので、ぜひ本を手に取ってみていただけるとうれしいです。本の「まえがき」を公開いたします。(編集部)


ま え が き


この本のテーマ

この本は「理不尽な進化」と題されている。ちょっと変なタイトルかもしれない(私もそう思う)。そもそも、進化が理不尽であるとは、どういう意味だろうか。

私たちはふつう、生物の進化を生き残りの観点から見ている。進化論は、生存闘争を勝ち抜いて生存に成功する者、すなわち適者の条件を問う。そうすることで、生き物たちがどのようにしてその姿形や行動を変化させながら環境に適応してきたかを説明する。そこで描かれる生物の歴史は、紆余曲折はあれどサクセスストーリーの歴史だ。生き残った生物は、なんらかの点で生存に有利だったからこそ生き残ったのだから。

10.08.2014

断片的なものの社会学 第8回「笑いと自由」


岸 政彦


第8回「笑いと自由」


本ブログで2013年末から1年間にわたって連載していた『断片的なものの社会学』が、このたび書籍になります。2015年6月はじめから書店店頭に並ぶ予定です。これまで連載を読んでくださってありがとうございました。書き下ろし4本に、『新潮』および『早稲田文学』掲載のエッセイを加えて1冊になります。どうぞよろしくお願いいたします!(編集部)


先日、ある地方議会で、男性議員からの、女性議員に対するとても深刻なセクハラヤジがあり、メディアでも大きく取り上げられて問題になっていたが、そのとき印象的だったのは、ヤジを飛ばされているちょうどそのとき、その女性議員がかすかに笑ったことだった。

あの笑いはいったい何だろうと考えている。

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仕事でも、あるいは個人的にも、いろんな人たちとお付き合いがあり、なかでも自分の研究や教育、社会活動の関係で、いわゆるマイノリティとか差別とか人権とかそういう活動をしている人たちと友だちになることが多い。





ある在日コリアンの男性で、私が心から尊敬して信頼している友人がいるのだが、彼がいつもくだらないことばかり言う。さすがに詳しくはここでは書けないが、非常に不謹慎で、自虐的なネタを言うことも多い。携帯に着信があって取ると「こんにちは、北朝鮮のスパイですけど」とか言われる。不謹慎以前にスベっていることも多く、どう返していいかわからないので、大半は何か適当にごにょごにょとつぶやいている。彼のふだんの、真面目で地道で真摯な活動をよく知っているだけに、いつも困る。

沖縄で、基地問題や沖縄戦の研究で非常に著名な方から、「内地留学」のお話を伺ったことがある。沖縄では、復帰前に本土の大学や大学院に進学することを、「内地留学」とか「本土進学」という言い方をしていた。本土へ来るのにパスポートが必要な時代だった。自分の家族と親戚がいちどだけ、わざわざ沖縄から会いに来たことがあって、東京の繁華街の真ん中で待ち合わせたときに「向うのほうから真っ黒い顔の集団がやってきて、どこの土人かと思ったら、僕の家族だったよ」と言って大笑いをしていた。私は曖昧かつ間抜けな笑みをうかべて、あははと小さく笑うしかなかった。

部落問題について研究している連れ合いの齋藤直子が、関西のある被差別部落の青年会の人たちと車で一緒に移動しているときに、また別のもうひとつの被差別部落の横を通りかかったら、青年たちが「なんか臭いな」「なんか臭いで」「ここ部落ちゃうか」「ここ部落やで」と言いながら大笑いしていたそうだ。

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