7.23.2014

修道院のレシピ:電子化記念!特別レシピ公開

猪本典子

『修道院のレシピ』(2002年、朝日出版社より刊行)は、フランス・ブルターニュ地方の修道院で開かれていた花嫁学校のお料理のクラスで使われていた教本 COURS DE CUISINE の全訳。500に及ぶレシピのほとんどは、フランスのふつうの家庭で食べられているお料理です。邦訳の刊行から10年以上が経ちますが、いまだに版を重ねているロング・セラーです。

『修道院のレシピ』
書籍版:
朝日出版社ウェブサイトAmazonhontoジュンク堂書店紀伊国屋書店
電子書籍版:
honto楽天ブックスBookLiveE-honebookjapan

今回、この本が電子書籍になりました。これを記念して、本の中から特にご紹介したいレシピを、著者の猪本典子さんにご紹介いただきます。料理の写真も、猪本さんの撮りおろしです。(編集部)
このページのもくじ

猪本典子さんより


「フランス料理を好きになってくれる人が増えれば」とあとがきを結んだ『修道院のレシピ』も出版から12年。干支が一巡する間、フランス料理に愛着を覚えた人はどれくらい増えたのだろう。

まず身近な人たちに大きな変化がひとつ。クスクスに添えると粟や稗だと多くの中年男性に不興をかったスムールも、目先を変えてタブレ(修道院のレシピ p.114)にすればまあみなさん、食べず嫌いであったことに気づいたり。そうなんですね、いくらパスタと同じセモリナ粉が原料だと説明しても、思い込みというものはなかなか振り払えないもので。ようやくスムールに対しての変な先入観がなくなったといえるのかもしれない。

ビストロもずいぶんと増えましたね。ステーキにフリッツやサラダを添えたものを気軽に食べることができ、おかげでフランス料理=ソースがたっぷりかかったもの、というこちらの印象も払拭された様子だ。

フレンチトーストもここ数年よく話題になるが、これもパン・ペルデュ(p.270)というフランスのおばあちゃんの智恵のような一品だということを、もちろんご存知でしょう。

フランスでも鮨に始まり今では餃子や丼もの、弁当(?!)まで大いにもてはやされる日本食、日本でもまずは第一歩、件の通り余分な偏見が取り除かれ、フランス料理のおいしさに気づく人が増えていくに違いない。ちなみにお菓子の分野ですが、今年中にゴーフルのブームがやって来るとそんな気がするんですがね。

さてそんな状況で、今回『修道院のレシピ』の電子版が配信される。以前からオーヴンの温度についての質問が多々あったが、やはり電気とガス、大きさ、個々の癖などで設定温度を明確にはできないのだ。中温、高温、時間などの表記を目安にしていただいてというほかない。ただ、どうしても解りづらいという箇所についてはオーヴンの温度以外にもこちらでお答えしようと思っているので、質問をお送りいただけましたら。


ちょっとだけ本の中身をご紹介。帯には「あーおいしい、うーんとってもかんたん、フランスの女子高生が使うお料理の教科書!」とあります。

前菜 / p.123
モルネ・ソースのシュー CHOUX MORNAY


シュー生地(パータ・シュー) :基本量1
モルネ・ソース        :基本量1
  1. 塩味の小さなシューを用意する。
  2. オーブンから出したら、モルネ・ソースを詰める。
  3. 温かいうちに食卓へ。

★シュー生地 PÂTE À CHOUX (p.295)
卵  :3個
小麦粉:125g
バター:60g
水  :200g
塩  :ひとつまみ
砂糖 :20g (デザート用) ※モルネ・ソースのシューでは入れない
  1. 鍋に水、塩、ちいさく切ったバターを入れ、火にかける。
  2. バターが溶け、全体が沸騰したら、ふるっておいた小麦粉を一度に入れる。
  3. 火からおろし、生地が鍋肌からはがれなめらかになるまで、木べらでしっかりかき混ぜる。
  4. よく混ぜながら、もう一度記事を弱火に瞬間かけ、水分を蒸発されて、バターがにじみ出ないようにする。生地が鍋底に薄い膜をはるようになったら、火からおろして、あら熱をとる。
  5. 卵1個を割りほぐして加え、数分間力強く混ぜながら卵を生地になじませる。
  6. 2つめ、3つめの卵を加える。十分な弾力が出るように、卵を加えるごとに力強くしっかりと混ぜ、必要なら4つめの卵または卵白少量を加える。
練りあがった生地は、やわらかめだが、流れるようではいけない。
生地は選んだレシピにそって、それぞれ異なる方法で火を通す:
ニョッキの場合は熱湯で、シュー・クリームやエクレアなどはオーブンで焼く、ベニエ・スフレは揚げ油で揚げる。

★モルネ・ソース SAUCE MORNAY (p.57)

ベシャメル・ソース(下記)に、グリュイエール・チーズをおろしたもの60~100gを加える。

★ベシャメル・ソース SAUCE BÉCHAMEL (p.57)
バター :30g
小麦粉 :30g
牛乳  :約500cc ※水またはブイヨンでつくればホワイト・ソース(ソース・ブランシュ)になる
塩、コショウ
  1. 焦がさないように、バターを溶かす。
  2. 小麦粉を一度に入れる。
  3. 木べらか泡だて器で手早くしっかりとかき混ぜる。
  4. 焦がさないように気をつける(これが白いルウ)。
  5. 牛乳全量を一気に加える。
  6. 手を休めずにかき混ぜながら沸騰させる。
  7. 塩、コショウで味をととのえ、とろ火で5~10分ほど煮込む。

  猪本さんよりコメント  

チーズはグリュイエールでなくても、シュレッド状の溶けるチーズを代用してもいい。

モルネソースの基本となるホワイト・ソース(ソース・ブランシュ p.57)は、ジップロックなどに平たく詰めて冷凍しておけば、カリフラワーやほうれん草のグラタン(p.223, p.228)、クロック・ムッシュー(p.128)などにも使える。食前酒といっしょにこんな小さなシューがでてきたら、うれしいですね。


野菜料理 / p.214
にんじんの蒸し煮 CAROTTES À L'ÉTOUFFÉE 
 
にんじん:1kg
たまねぎ:250g
砂糖  :10g
油脂  :75g
塩、ブーケ・ガルニ
  1. たまねぎの皮をむき、薄切りにする。
  2. にんじんの皮をむき、よく洗って輪切りにする。
  3. 厚手のココット鍋に油脂を溶かし、にんじん、たまねぎ、ブーケ・ガルニを入れる。
  4. 砂糖、塩で味をととのえて炒め合わせ、水1カップを加える。
  5. ふたをして弱火で45分から1時間、ときどきかき混ぜながらにんじんが柔らかくなるまで煮る。鍋から目を離さない。
注:できあがる10分前に干しプラムを加えてもいい。


  猪本さんよりコメント  

レシピにある油脂は、ムニエルなどバターを使う料理の付け合わせにする場合、オリーヴ油やカロリー控えめの油を用いても。もちろんバターでも。

甘みに対しては個人差が大きいので、砂糖の分量はレシピより少なくするなど調整しながら好みの味に仕上げてください。これも好みだが、ブーケガルニは調理を始めて30分くらいで取り出した方が、ハーブの香りが強くなりすぎなくていいように思う。



野菜料理 / p.227
ズッキーニのグラタン COURGETTES AU GRATIN 
  1. 塩を加えた熱湯でズッキーニを10分ほどゆでる。
  2. 薄切りにするか、小さければまるごと使う。
  3. バターを塗ったグラタン皿に並べる。
  4. ベシャメル・ソースかモルネ・ソースをかける。
  5. グラタンに焼く(パン粉とバターを散らす)。

  猪本さんよりコメント  

ズッキーニは5ミリ幅の輪切りにしたり、または細切りにしても違った食感が味わえる。茹でたマカロニを加えても。


魚料理 / p.173
魚のムニエル POISSON MEUNIÈRE

魚  :6尾
小麦粉:大さじ2杯
バター:60g
塩、コショウ、酢またはレモン汁少量
  1. 魚の下処理をし、洗って水気をふき取る。
  2. 魚の内側に塩をし、表面に小麦粉をまぶす。
  3. フライパンにバターを熱し、中火で焼く(大きい魚の場合は弱火)。
  4. 半分焼けたところで(魚の大きさにより、5~10分間)、身をくずさないよう注意しながらひっくり返す。
  5. 塩、コショウで味をととのえ、温めておいた皿に盛りつける。
  6. 魚を焼いたフライパンに酢かレモン汁を入れ、焼き汁をのばして温めたソースを魚の上にかける。
この調理法で、大きな魚のフィレ(三枚におろしたもの)や切り身、また小さな魚であればまるごと1尾(厚みがある魚は背骨に添って切り目を入れる)を調理することもできる。

  猪本さんよりコメント  

小学校の家庭科の時間に平目のムニエルを作ったことがあるが、今思えばフランス料理を習ってたんですね。和食の焼き魚や西京漬けと同じく、フランスの魚料理で親しみのある一品。ここでは黒鰈を使っているが白身魚なら何でも、鯵などの青い魚でもおいしい。


野菜料理 / p.260
いんげん豆のソテー HARICOTS VERTS SAITÉS
いんげん豆:1.2kg
油脂   :60g
  1. 塩を加えた熱湯で、いんげんはやわらかくなるまで15~25分ゆでる。ふたはしない。
  2. 水気を切る。
  3. ソテー用の鍋またはフライパンに油脂を溶かす。
  4. いんげんを加えて焼き色がつき始めるまで炒める。塩をふる。
  5. 皿に盛る。
  6. パセリのみじん切りを散らし、レモン汁をひとたらしする。

  猪本さんよりコメント  

いんげん茹で過ぎ?と思ってしまいそうだが、フランス料理の付け合わせのいんげんって、けっこうやわらかいんですよ。これがたまに食べたくなるんですね。

ムニエルにバターを使っているので、にんじんの蒸し煮と同様オリーヴ油やカロリー控えめの油でも。


デザート / p.260
アプリコットのムース MOUSSE AUX ABRICOTS

乾燥アプリコット:250g
砂糖      :250g
生クリーム   :200g
キルシュ、バニラ
  1. アプリコットを一晩水につける。
  2. 水から20~25分煮て、水を切り、ミキサーにかける。
  3. 生クリームを泡立て、砂糖とバニラを加える。
  4. アプリコットのピュレを少しずつ加え、キルシュで香りをつける。
  5. 冷やして食べる。

  猪本さんよりコメント  

数年ぶりに作ってみたら、いやあおいしすぎて、もう何個も食べてしまいましたよ。

生クリームは、6分くらいに泡立てる。泡立て器を引き上げると、角がやんわりと立つ程度。アプリコットのピュレを多めに作っておけば、ヨーグルトに加えたり。 




『修道院のレシピ』 Q&A

これまでにいただいた読者の方からのご質問について、猪本さんのご返答を掲載します。このほかにも、ご不明の点がありましたら、およせください。(メール: info2■asahipress.com ※■をアットマークにしてください) ただし、お答えがむずかしい場合もあるかもしれません。ご了承ください。

Q. p. 172 の魚のクール・ブイヨン煮について。クール・ブイヨンについて調べてみると、「濾しとっただし」のことのようなのですが、野菜はどうするのが一般的でしょうか。捨てるのはもったいないと思うのですが。


A.
本来のク―ルブイヨンは、野菜を煮出し、漉したものです。
しかし家で食べる場合、野菜も魚と一緒に煮て、盛りつけ、ちょっとマリネのような感じでいいかと思っています。

実際知り合いのフランス人家庭でも、そのようにしていました。

まあ、人をお招きする時など見栄えがいいということを選択するなら、漉して使っていただければ。

漉した野菜をミキサーにかけ、バターを足したりすれば、これもまた亜流ですがソースになったり。

魚の種類によって、香草を変えると、また味も広がります。


Q. オーブンの「ごく低温」「低温」「高温」「かなり高温」は、具体的にどのくらいでしょうか?

A.
オーブンについては、ガスと電気、オーブンの大きさやくせといった部分での個体差がありますから、お使いのオーブンの低、中、高温を把握するのがいいかとおもいます。

レストラン等のオーブンでは、330度ぐらいまで設定できるので、高温は200度以上、中温は100~200度、低温は100度以下という認識があるようですが、家庭用とはかなり異なるかと。デロンギの電気オーブンでは、高温は220度くらい、中温は150度くらいで設定しています。


Q. ベーキングパウダーの「1袋」、バニラシュガーの「1袋」とは?

A.
この本の「1袋」は、フランスの小さい袋に入ったものを指しています。どちらも5gです。


Q. ヨーグルトのケーキ(p. 308)について。ヨーグルトは何グラムでしょうか。「容器1個分」はなにをさしますか?

A.
容器は市販ヨーグルトのカップ130g入りのことを指します。それでカップをつかって小麦粉や砂糖を計量した場合、3カップ、2カップ…ということになります。


Q. フルーツジュースのシャーベット(p. 275)について。「生乳」とあるのですが、牛乳でよいですか?

A.
原文にあるLait Cruを訳したものです(加熱殺菌していない牛乳)。フランスでは数種の牛乳があるので、こういう表記になっていますが、牛乳でもだいじょうぶです。



[著者紹介]

朝日出版社の猪本典子さんの本

FRESH  修道院のレシピ