5.03.2011

中川恵一
イラスト 寄藤文平
第1回

東日本大震災の被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。今回の原発事故により、「放射線」という言葉を聞かない日はありません。ただ怖がる、のではなく、「正しく怖がる」ために必要なことを皆さまと共に考えていきたいと思います。

1. 放射線を語るための「言葉」からはじめましょう。
テレビから突然、「シーベルト」とか「マイクロ」とか「ベクレル」とか、耳慣れない言葉が聞こえてくるようになりました。

よくわからないからこそ、「怖そう」とか、「どうなってしまうんだろう」といった不安や恐怖を抱いている方も多いのではないでしょうか。

たしかに放射線は目に見えず、扱いを誤れば危険なものです。健康に被害を及ぼしますし、場合によっては人の命を奪う。

さて、一般に、相手がどんなものか、どこがどう危険なのかわからなければ、対処できません。

そして、放射線を知り、対処するためには、要は「正しく警戒する」「正しく怖がる」ためには、まず放射線独特の「言葉」をきちんと理解したいものです。ごく少数の用語と単位、数字だけで十分です。

これは、インターネットの話をするのに、「メガ」とか「バイト」の意味を知らないとわけが分からなくなってしまうのと同じです。

「1ギガバイトのPDFをZIPで圧縮してインターネットプロトコル・アドレス変更後に……」と言われても、普通は何がなんだか分かりません。分からないから、手に負えないと思ってしまう。


しかし、言葉の一つひとつを基本から理解し、「化けの皮」をはがせばよいのです。

まずは、「言葉」から始めましょう。


2. 「被ばく(被曝)」は「被爆」ではありません。

「ゲンシリョク」「ホウシャノウ」「ヒバク」と聞くと、原子爆弾による「被爆(ひばく)」を想像する人も多いと思います。

でも、放射線の場合、「被ばく」は「被曝」と書きます。これは放射線に「さらされる」という意味です。「ばく」の漢字が、「火」偏じゃなくて「日」偏の「曝」です。訓読みは「さらす」ですね。むずかしい文字なので、以下、「被曝」ではなく、「被ばく」と表記します。
語感はなんとなく恐ろしいですが、実はだれでも、普段からさまざまな放射線に被ばくしていることをご存知でしょうか。放射線を出す物質(放射性物質)が、もともと自然界に存在するからです。これは追って詳しくご説明します。

他方、原子爆弾の「被爆」の方は、日常的ではありません。もともとは、「爆撃を受ける(被る)」という意味です。日本では主に、原子爆弾によって、直接的・間接的に被害を受けることを指します。

原子爆弾の「被爆」の方は、戦時における核兵器による爆撃ですから、突発的な事態で防ぎようもありませんが、放射線の「被曝(被ばく)」は違います。正しい知識を持てばリスクも減らせますし、予防もできるのです。
[著者紹介]

著者による朝日出版社の本
『死を忘れた日本人』
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『がんのひみつ』
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