中川恵一
イラスト 寄藤文平
イラスト 寄藤文平
第2回
3. 「放射能がやって来る!」はまちがいです。
「放射線」「放射能」「放射性物質」。どれも互いによく似た言葉ですが(だからこそ、よく混同されるのですが)、意味はそれぞれ異なります。
「放射線」は、物質に“電離”を与える「光」や「粒子」のことですが、平たく言えば、物体を突き抜ける能力の高い光や粒子のことを指します。さまざまな種類の放射線があって、その性質もそれぞれ違うのですが、とりあえず、全部まとめて「放射線」と呼んでおきます。
放射線は無色・無味・無臭で、目には見えませんが、人体に影響をあたえます。紫外線に似たものだと言えます(紫外線は、身体の奥まで“透過”しませんから、皮膚がんしか増やしません。その点、放射線は、すべてのがんを増やす可能があります)。
「放射性物質」は放射線を出す物質のことです。具体的には、ヨウ素やセシウムといった(放射性)元素のことです。
「放射能」は放射線を出す“能力”のことです。カタチある物ではないので、「放射能が来る」とか「放射能をあびる」という言い方は適切ではありません。正しくは「放射能を持っている」「放射線をあびる」です。
なお、「放射能漏れ」という表現は、「放射性物質が漏れ出る」の意味でしばしば使われていますが、やはり、適切な表現ではありません。
あとでも述べますが、放射性物質は放射線という目に見えない光を“放つ”「花粉」のようなものです。あるいは、光を放つ蛍のイメージでもよいかもしれません。花粉や蛍がビンのなかに“おさまって”いれば、ビンから出る光をさえぎることは簡単です。ビンから遠ざかったり、布をかけてしまえばよいわけです。
しかし、放射性物質自体が漏れ出る(放出される)と大変です。ビンから花粉や蛍が出てしまうと、ほとんど元には戻らないのと同じです。
4. 放射線・放射能・放射性物質──ロウソクの話。
放射線・放射性物質・放射能の関係は、ロウソクにたとえてみるとわかりやすいと思います。ロウソクが「放射性物質」で、火がついている状態が「放射能あり」の状態です。そこから出てくる明かり(光)が「放射線」です。
(少し専門的になりますが、「放射性物質」は「安定していない状態の物質」なので、より安定な物質に変化しようとします。そのとき、エネルギーを放出します。これが「放射線」の正体です。安定した物質に変わってしまえば、それ以上放射線は出ません。)
時間が経つにつれて、ロウソクが短くなっていきますね。ロウソクが完全に燃え尽きれば、火も消えます。当たり前です。そして、火が消えれば、放射能もなくなり、放射線も出なくなります。
ロウソクが短くなっていくスピードは、ロウソクの性質や種類ごとに異なります。同じように、放射性物質の種類によって「燃え尽きるまでの時間」が違います。ロウソク(放射性物質)の長さが半分になるまでに掛かる時間を、「半減期」と呼びます。
たとえば、「半減期」が8日のロウソクは、8日で、半分の長さになります。さらに8日で、その半分の長さ(もとの4分の1)になり、さらに8日後(つまり約1か月後)には、その半分の長さ(もとの16分の1)になります。〔2か月経つと最初の量の200分の1、3か月で1,000分の1以下。〕
ヨウ素131という放射性物質の半減期は、このロウソクと同じく8日です。しかし、セシウム134という放射性物質の半減期は約2年、ストロンチウム90の場合は約28年、そしてプルトニウム239の場合はなんと2万4千年です。
この半減期こそが、放射線の人体への影響にとって重要な意味を持ちます。
半減期の短いロウソクは「太く短く」燃えます。この場合、放射線は短期間で一気に出るのですが長続きしません。「はじめが肝心」の備えで事足りると言えます。しかし、半減期の長いロウソクは「細く長く」燃えます。じわじわと時間をかけて放射線が出るので、「ずっと」注意が必要なのです。
第1回へ
[著者紹介]