5.19.2011

中川恵一
イラスト 寄藤文平
7. 「シーベルト/シーベルト毎時」は「距離/速度」の関係。

10ミリシーベルト(mSv)という表現を見たり聞いたりしたときには、それが何の量を表しているか、注意が必要です。

だれでも知っている10キロメートル(km)の場合と同じこと。この10キロとは、距離なのかスピードなのか、その都度、判断しているはずです。同じ10でも、一方は距離、他方は速度。


それと同じことで、10ミリシーベルト(mSv)と聞いた時に、これは「ある時間あたりの放射線の人体への影響」(放射線の勢い・強さ)を示すのか、「ある期間で積算した放射線の人体への影響」を示すのか、区別が必要なのです。


たとえば、毎時10マイクロシーベルト(10 μSv/h)──μSvはmSv(ミリシーベルト)の千分の1の量を示す単位でした──の放射線を3時間受けた場合、被ばくする総量は30マイクロシーベルトになる、ということです。

ちなみに、1日だったら1時間あたりの放射線量を24倍する(10 μSv × 24 = 240 μSv)。その365倍で年間の放射線量がわかります。(240 μSv × 365 = 87,600 μSv。)このマイクロシーベルト単位の数字を、ミリシーベルトに換算すれば(数字を千分の1にして)、87.6ミリシーベルト(mSv)。

人体への影響は年間100ミリシーベルト(mSv)を目安に、と言われます(改めてご説明します)。これは正確には「積算値」のことです。「勢い・強さ」に換算すると、毎時(=1時間あたり)11マイクロシーベルト(μSv)以上の放射線を、1年間ずっと被ばくし続けてはじめて、この量に達します(100 μSv ÷ 365日 ÷ 24 = 0.011 mSv = 11 μSv)。

新聞やテレビやインターネットにおいても、「シーベルト」と「シーベルト毎時」を混同しているケースがあるので、注意が必要です。


8. 放射線の単位の使い分け──ベクレルとグレイ。

シーベルト(Sv)は、「放射線の人体に対する影響(危険度)を表す単位」で、「被ばく量」を示します。他方、食品や水などに含まれる放射線の「放射能」の強さを示す場合には、ベクレル(Bq)という指標を用います。

ベクレルは、1秒間に何個放射性物質が崩壊して、放射線が放出されるか(=放射性物質が、エネルギーを放出して別の物質になるか)を示しています。(別の物質になって安定すればもう放射線を出しません。)

食物に含まれる「放射能(ベクレル)」が、それを摂取する私たちにどれだけ「被ばく量(シーベルト)」を与えるかは、放射性物質の種類、取り込み方(吸引か経口か)、私たちの年齢などによって変わります。

もう一つの単位「グレイ(Gy)」は、物体に吸収された放射線の量を示します(1グレイとは、1キログラムの物体が放射線から受けたエネルギー、1ジュール = 約0.24カロリーのこと)。

大まかに言えば、「シーベルト」は人体に対する影響(危険度)、「ベクレル」はある物がもつ放射能の強さ、「グレイ」は物が受ける放射線の量を示します。

雨にたとえてみます。雨雲(放射線物質に相当)から何粒の雨(放射線に相当)が降るか、それが「ベクレル」です。雨粒がどれくらい地上に落ちたか(降水量)を示すのが「グレイ」です。そして、雨粒によってどれくらい濡れたかを表すのが「シーベルト」です。


ちなみに、人間の体の中には常に、空気や食べ物から取り込んだ放射性物質があります。例えば、野菜や果物などには天然の放射性カリウムが含まれており、それらを食べることによって、成人男性の体内には約4,000ベクレルの量が常時存在しています。

被ばく量に換算すると、1年で、食物から0.29ミリシーベルトとなります。また、大気を呼吸することからも1.26ミリシーベルトの内部被ばくをしています(世界平均値)。

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